研究概要
VCADシステムとは

VCAD(=ボリュームCAD)とは、従来のCADと異なり、ものの内部の構造や欠陥などの情報まで扱うことを意図した、ものづくり支援の統合ソフトウェアシステムです。ここで言う統合とは、設計、計測、モデリング、シミュレーション、可視化、加工などの機能が統合されているということで、これも従来のCADの枠組みを踏み出しています。

また、複雑なものの内部をモデル化できるというVCADの特徴は、ものづくりだけでなく医療分野や生物科学分野の課題にも適しており、これらの分野も対象としています。

VCADシステムは、理化学研究所のプロジェクトとして2001年度から開発が始まり2010年度で終了しました。現在、プロジェクトは終わりましたが開発されたソフトウェアは発展を続けており、バージョンアップやメンテナンスも継続して行っています。

VCADシステムの構成

VCADシステムの全体構成は図1のようなもので、入力部、モデリング部、シミュレーション部、加工部の4つの部分に分かれています。入力部で取り込む対象としては、設計(従来のCAD)データだけでなく、3次元形状計測機によって計測される「表面形状」データと、X線CTや3次元内部構造顕微鏡、供焦点レーザー顕微鏡などによる「物体内部の構造/欠陥計測」のデータがあります。

VCADシステムの全体像

図1 VCADシステム

取り込まれた形状データは離散点群、構造データは3次元イメージデータですが、それらはモデリング部で陰関数形状表現や、注目領域抽出法を用いて形状や構造モデルに変換されます。

モデリング部では、さらに形状や構造モデルを熱流体解析や、構造解析、光路解析などを行うための、解析モデルに変換し、シミュレーション部にデータを届けます。

シミュレーション部では、熱流体や、変形・破壊、光路、生体、細胞などの挙動に関するシミュレーションを実施し、結果を可視化します。これらの作業の行程をスムースにデータが流れる事をVCADは意図しています。精密加工のためのCAM機能も開発されており、「長田パッチ」などVCAD独特の高精度形状表現データに対応しています。

VCADシステム研究開発の経緯

理研において2001年に開始された「ものつくり情報技術統合化研究プログラム」で目指したのは、計算機の中に「ものの形だけでなく、複雑な内部構造や内部の物理属性もそのまま表現できる、すなわち『もの』を『中まで詰まったもの』として扱うことが可能となる」表現法を実現し、それを用いて設計(CAD)、計測(CAT)、シミュレーション(CAE)、加工(CAM)を統合することでした。我々は物体のボリューム情報まで表現できる技術という意味で、これにボリュームCADシステムと名付けました。

「中まで詰まったもの」を表現するために導入した「ボリュームデータ構造」は、「固体や流体の占める空間全域を等間隔の格子で分割し(分割された空間単位をセルと呼ぶ)、物体の境界面をセルの中に陽に書き込む、セルは必要に応じて八分木に分割できる」という簡易で明快な表現法でした。

VCADシステムの全体像

図2 空間と境界を表すキッタキューブセル表現

このようなセルを「キッタキューブセル」と呼び、そのデータを生成するソフトウェアを「VCADフレームワーク」と名付けました。これにより、ものの内部と流体の存在する空間とを、境界を持ったセルを単位として統一的に離散化でき、ものの形状や構造を表現できるともに、解析モデルとしても機能することが期待されました。しかし、これは単純なようで、実はいくつもの困難がありました。それは、形状表現の自由度が限られ、例えば製品の稜線や角点などが思う様に表せないこと、境界面で切断されたセルを有限要素として構造解析を行う場合に、要素の形状や大きさのコントロールができないこと、流体解析においてセル内の境界の形があまりにも多岐にわたり扱うのが困難なこと、などです。

そこで、解析モデルとして、初期の「キッタキューブセル」の他にそれを変更した以下の2つの表現方法を追加しました。一つは熱流体解析を対象にして流体空間を表現するのに「キッタキューブ」と同様8分木セル構造を用いるが、境界面を陽に表現せず、符号付き距離関数などによる方法、もう一つは構造解析を対象に、物体表面や物体境界面を重視しセル構造をテンプレートとして境界に沿って大きさや形状をコントロールした有限要素を発生させる方法です。

また、VCADシステムを構成する重要な基盤技術として、新しい3次元形状表現法の研究開発が行われ、その中から、次の2つの方法が生まれました。一つはSLIMと名付けられた、陰関数による形状の境界を表現する手法、もう一つは「長田パッチ」と呼ぶ2次の曲面三角形を用いた、面を陽にかつ高精度に記述できる手法です。前者は計測された表面点群データから境界面を生成するのに適しており、後者は従来のCADで解決困難な課題とされているパッチ間の合わせ目に生じる面のC0不連続を回避できる優れた表記法です。

このような、基盤的な研究成果の上に、2006年4月から「VCADシステム研究プログラム」が開始されました。目標は、これまで開発してきた技術を発展させて、現実の問題が扱えるレベルまで鍛え上げるとともに統合化を推進して、ものづくりや製品開発の現場で使えるシステムを目指すことでした。

特記すべき事は、VCADシステムの扱う対象として生物科学分野が加わったことです。そのため次の2つの課題を取り上げることとしました。1つは細胞生物学の研究者を対象に、共焦点レーザー顕微鏡などで取得される時間を含む4次元画像データから、ノイズを除去し、注目領域を抽出後、計量可能な性質を取り出してモデル化する機能を開発すること、もう1つは計測結果に基づいて、運動する細胞のアクチンフィラメントの挙動をマルチスケールの力学でモデル化しようという試みです。生きている細胞の挙動を力学・生化学で「理解する」ことを目的としています。

VCAD公開ソフトウェア

図3に公開ソフトウェアの全体図を示します。これは図1のVCAD基本構成を具体化したもので、モデリング部には形状モデルを生成するブロック[1]と、構造モデルを作成するブロック[2]が含まれています。また、モデリング部からシミュレーション部にかけて、[3]から[7]まで5つの横長のブロックがありますが、ブロックの中はいずれも「解析モデルの生成」「力学・光学などの解析」「結果の可視化」などからなる一連のソフトウェアによって構成されています。

VCADシステムの全体像 「形」の離散モデル作成 「もの」の構造/欠陥の離散モデル作成 VCAD Framewordベースの構造・流体解析 ボクセルベースの熱流体解析 有限要素法による非線形構造解析" 超精密光学素子の光路解析 細胞のモデル化、シミュレーション 精密加工

図3 VCADシステム公開ソフトウェア全体構成

各ブロックをクリックすると、詳細説明にリンクします。