特集
設計と現物をつなげるVCAD
実物を衝にした構造解析

掲載日:2007.4.2
VCADによる構造解析とは
対象物に力が加わった状態で構造的にどのように変化するのか?
この問いに答えるためには実際にモノを試作して実験をしてみることが必要となりますが、実際のモノ(試作品)を用いた実験には、膨大な人手と時間がかかります。そのため、人手と時間をかけずに試作・実験を行なう手法として、コンピュータ上で仮想的に実験を行なう構造解析が試みられ、その実験結果として得られる変位(歪み、形状位置の変化)や応力等により定量的に変形強度を評価することが行なわれています。
しかし、現状では、理想形状かつ内部物性・構造を持たないCADデータを対象物として仮定するために、実際の試作品で起きる現象とは異なる問題が発生しています。
VCADシステムでは、対象物としてCADデータだけではなく、実際の試作品形状及び内部物性・構造が格納された測定データをもとに仮想実験を行なうことにより、従来にはない予測精度での解析が期待されます。

本特集では、下図に示すモーターバイク部品(ブレーキキャリパー部品ケース)による構造解析を取り上げてみました。この部品は、ブレーキディスクにブレーキパッドを押さえ込む安全上重要なパーツで、アルミ鋳造にて製造されています。

CADデータをもとに変形強度を調べる
図1 CADデータ

図1 CADデータ

上図(図1)は、設計者によりCADを用いて描かれたブレーキキャリパー部品ケース(対象部品)の3次元形状(CADデータ)です。
CADのデータは、3次元の表面形状を表わすことはできますが、皮(表面)だけで、中身(内部)の情報は持っていません。そのため、内部は理想的な均一な物性を持つものと仮定するのが一般的です。
しかし、実際の現物では、複雑な内部構造、部位によって異なる様々な物性から構成されています。

本サイトで一般公開されているソフトウェア「V-Struct」を使用して、CADデータをもとに物性値(アルミ材料)を与えて変形強度を推定してみます。今回の解析では、図2に示すように対象部品を固定する役目を果たすA及びB部を完全拘束(X,Y,Z拘束)として、ブレーキパッドを押さえ込む機能を担うC部に変位が加わると仮定しました。
下図(図2及び図3)はVCADによる構造解析結果例を示しています。図3(a)では、「最大主応力分布(Mpa)」を示しています。対象部品を固定する部位付近等ではスケール分布が赤く応力が高くなっており、主な領域では青くなっていることから局部的に高い応力が発生していることがわかります。図3(b)では、「初期形状に対する変位量(変形形状)」を示しています。変位を加えたC部だけが変形するのではなく、対象部品全体に変形がおよぶことがわかります。

構造解析設定条件 最大主応力分布 CADデータにもとづく構造解析結果
(a) 最大主応力分布 b) 変形形状
(mm・変形倍率:30倍)
図2 構造解析設定条件 図3 CADデータにもとづく構造解析結果
現物を測定してみる
産業用X線CTスキャン装置により、実際のブレーキキャリパー部品ケース(対象物)を測定してみました。図4が対象物を306断面(約0.5mmピッチ)に分割して撮影されたX線断層写真です。これらの断層写真は、本サイトで一般公開されているVCADソフトウェア「V-Cat」を使用することにより、3次元立体形状データに変換することができます。
このVCADソフトウェア「V-Cat」では、X線CTやMRIにより取得された物体各断面のイメージデータ(BMP又はTIFF形式の連続断面画像)から領域を抽出して、複雑な内部構造、部位によって異なる様々な物性情報等表面形状だけではなく中身を持ったVCADデータに変換できます。
VCADでは、実際の対象物より取得された外形形状情報だけではなく、内部構造及び物性情報を外形形状情報と共に数値データとして蓄積・利用することができます。

X線CTスキャン測定

図4 X線CTスキャン測定

欠陥も見つかる

X線CT測定データをもとにVCADソフトウェア「V-Cat」を用いて作成された3次元立体形状データ(VCADデータ)では、可視化することにより表面形状だけではなく内部構造をみることができます。
図5は、実際のブレーキキャリパー部品ケース測定結果です。部品内部に鋳巣と呼ばれる小さな空洞が数多く部品全体に分布しています。
VCADデータでは、各鋳巣の大きさが定量的に把握でき、大きな鋳巣では数伉度のサイズであることがわかります。このように、部品製造(鋳造)過程での不具合発見にVCADデータを役立てることができます。

X線CTスキャン測定結果(鋳巣)

図5 X線CTスキャン測定結果(鋳巣)

現物から解析してみる

本サイトで一般公開されているソフトウェア「V-Struct」を使用して、X線CTスキャン測定データをもとに作成された3次元立体形状における変形強度を推定してみます。
図6は、CADデータによる構造解析事例(図2参照)と同じ拘束及び変位を対象物に与える設定(境界)条件にて解析を行なった計算結果を示しています。
VCADでは、CADデータによる設計形状(理想形状及び材質)での解析だけではなく、実際の対象物より取得された外形形状、内部構造及び物性情報をもとに解析を行なうことができます。

最大主応力分布(Mpa) 測定(CT-SCAN)データにもとづく構造解析結果)
(a) 最大主応力分布(Mpa) (b) 変形形状
(mm・変形倍率:30倍)

図6 測定(CT-SCAN)データにもとづく構造解析結果

VCADの可能性

従来からのCADデータ(サーフェス・ソリッドモデル)に基づくものづくりでは、物体形状が表面(内部は空洞)しか表現されていないので、「実物」が有する様々な特性を内部構造等も含めて取り扱うことができません。そのため、現状のものづくりでは、「実物」を使用した試作・修正の繰り返しによる「相互調整(摺り合わせ)」作業に膨大な時間及びコストを費やしながら何度も行なうことで、製品品質・信頼性の確保してきました。
VCADでは、物体の表面形状だけではなく物体が占める空間(環境)及び物体の内部構造・内部物性を物体表面形状と共に扱うことができます。
この新たなデータ構造(VCADデータ)が、設計情報にはない製造過程中で発生する物理現象等を内部構造・物性モデルとしてものづくり工程の中に取り込む役割を果たすことにより、従来にはない高度機能部品の誕生等新たなものづくりの実現が期待できます。